はじめに
グレッグ・マキューン氏の『エッセンシャル思考』は、私にとって仕事観を揺さぶる一冊でした。
続編の『エフォートレス思考』と合わせて読み進めるうちに、長年抱えていた
「やめられない」「切り替えられない」「こだわりすぎてしまう」
という自分の癖の正体が見えてきたのです。
その“気づき”を決定づけたのが、第12章「キャンセル」で紹介されていた サンクコスト(埋没費用) という概念でした。
サンクコストとの出会い
当時私は、児童虐待に関する業務を担当していました。
年に一度の重要な会議資料を作成するために睡眠を削り続け、提出期限を過ぎても完成しない状態。
ある夜、風呂の中でようやく一息ついたとき、通勤中に読んでいた『エッセンシャル思考』の言葉が突然、現実と重なって理解できました。
「それまでにどれだけ労力を投じたかは、未来の判断とは関係がない。」
頭では分かっていたつもりなのに、実際の判断では“もったいない”が勝ってしまう。
本書で紹介されていた「超音速旅客機コンコルドの30年赤字」の例が、自分の身に置き換わるように突き刺さりました。
私が陥っていた「もったいない」の罠
虐待事例の記録を詳細に残していた私は、
- せっかく書いたのだから削れない
- ここまで作ったのにもったいない
- 完成度を下げるのは悔しい
と、方向転換できなくなっていました。
本来なら、
「キーワードだけ記載し、発表時に補足する」で十分だった
はずなのに、途中までの労力に引きずられていたのです。
今では、作業の途中で「これはまずいぞ」と感じたら
「サンクコスト、サンクコスト」
と心の中で唱えて立ち止まるようにしています。
睡眠不足が判断力を奪っていた
当時の私は睡眠時間が4〜5時間ほどしか取れていませんでした。
当然ながら、判断力は落ち、選択肢を狭め、焦りばかりが増えていきます。
『エッセンシャル思考』では第8章で、
「8時間睡眠は、自分という資産を守る行為である」
と紹介されています。
今振り返ると、
冷静な判断ができなかった大きな原因のひとつは、睡眠不足だった
とようやく理解できました。
「いま、ここ」に立ち返るマインドフルネス
第19章では、呼吸を使った気分転換や、禅僧ティク・ナット・ハンの「いま、ここ」を生きる方法が紹介されています。
- 過去の後悔
- 未来の不安
- 終わらない作業への焦り
これらは、今この瞬間に意識を戻すだけで大きく軽減されます。
私自身、短い呼吸リセットを取り入れることで、作業中の混乱がやわらぐ瞬間が増えました。
頭がスッと整い、次に何をすべきかが自然と見えてきます。
エッセンシャルに生きるためのヒント
『エッセンシャル思考』は、知らず知らずのうちに身についた
「無駄」「こだわり」「過剰な努力」
を手放すための視点を与えてくれます。
特に心に残ったのは、
- 無駄だと気づいた瞬間に手放す
- 途中の労力に縛られない
- 未来にとって必要な方向に進む
という柔軟さを取り戻すという点です。
「もったいない」という価値観は尊重すべきですが、
未来の可能性まで狭めてしまうなら、手放す勇気も必要。
本書はその判断基準を、静かに、力強く示してくれます。
まとめ:本当に大切なものは、静かに残る
私の日常を振り返ると、
- 情報を取り込み、
- 思考の土台を整え、
- そして本当に大切なものだけを選ぶ。
そうした流れが自然とできてきたことに気づきます。
『エッセンシャル思考』はその最後のステップとして、
「手放すことの価値」 を教えてくれました。
迷ったときこそ、立ち止まり、睡眠を整え、
サンクコストの呪縛から離れ、
「いま、ここ」に戻る。
その積み重ねが、無駄を量産しない生き方につながっていくのだと思います。

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